工場見学
アイウエオ
カキクケコ
≪ 戻る

人と糸が紡ぐデニム文化
『HITOTOITO』のデニムスクールを訪ねる。【SFV Online Vol.4】

「デニム」で思い浮かべる地域、ありますか?
今回訪れた広島県福山市を中心とした備後エリアは、日本屈指のデニム産地。計算すると、国内の2人に一人がこの産地で織られたデニムを履いているほどの生産量を誇るエリアです。

2020年7月29日に訪問したのは、広島県福山市新市町にある繊維産地継承プロジェクト委員会『HITOTOITO』が運営を行うデニムスクール。縫製工場を経営する有志8社で作り上げた産地の中にある学校です。
訪問した日はちょうど、第4期の受講生11名のうち午後クラスの5名が卒業制作を仕上げていました。
課題は「自分用のセミオーダージーンズ」の制作。案内は同委員会副委員長の黒木 美佳さんにしていただきました。(所属:DISCOVERLINK SETOUCHI)
繊維文化を日本人が継承できない危機感
見学は地域の歴史説明から始まりました。その歴史は江戸時代まで遡ります。江戸時代後期に福山藩主が綿を用いた「絣-かすり-」の生産を奨励し、大衆着として日本に広まったと言われています。

絣の藍染はその後デニム生産に繋がり、地域には国内有数のユニフォームメーカーを始め繊維関連企業が数多く存在。その特性は、絣生産時代の名残で工程毎の分業制が多いこと。製糸から染色・織布・裁断・縫製・洗い加工など、小さな家族経営工場も含めると多数の従業者がいるそうです。

「産地内にどれくらい企業がありますか?」と質問が出ましたが、「全体を把握する組合がないことと、下請け孫請けなど構造が複雑化したため把握が難しい」との回答でした。

そうした中小の分業工場を組み合わせているのが、「OEM:Original Equipment Manufacturing(他社ブランドの製品製造)」。彼らがメーカーから受注を受けて、各社と協働して工程ごとに仕事を持ち込んで一つの製品を完成させます。この業態は技術が高まる一方で、各社の名前は世間に知らません。公表されるのは有名ブランドの名前のみ。そのため、一大産地であるはずの福山の「こだわり」は全国に広がりにくい状況でした。
「HITOTOITO」立ち上げの経緯は、ある危機感から。

現在、デニムやカジュアルウェアの製法工場へ勤めるミシンオペレーターの多くは多くは海外からの「実務研修生」。せっかく技術を覚えても、3年後には自国へ帰ってしまいます。

彼らの労働力が頼りである一方、技術継承の問題が徐々に深まってきました。このままでは、産地から技術者がいなくなって産地が消えてしまう。そこで発足したのが、繊維産地継承プロジェクト「HITOTOITO」だったそうです。

糸一つとっても、デニムの種類によって要望は様々。

最初は地域の高校向けにカリキュラムを導入できないかと模索を始めましたが、中々うまくいきません。そんな時に知ったのが、鞄の産地として有名な兵庫県豊岡市にある「トヨオカ・カバン・アルチザン・スクール」の存在。

参考画像:豊岡カバンアルチザンスクール
ヒントを求めて有志数人で見学へ行ったところ、鞄縫製に特化したトレーニングセンターに出会います。
全部できなくても良い。きっかけが『次』を生む場。

デニムスクールを始める最後の一押しになったのが、豊岡でもらった言葉。

「全部できなくてもいいじゃないか。」

例えば1年ではなく1か月でも、縫製ラインの一番簡単なところからでも始められる人材を育てるコトからでもいいのではないか。「これなら自分たちの地域でもできるかもしれない」と確信を得て「デニム縫製を教える学校を作る」という方向に動き始めたそうです。

プロジェクトに賛同する企業が集まり、何度も話し合いが持たれ、講師探しやカリキュラム作成、テキスト作り、チラシの作成・募集要項など、試行錯誤しながら2018年にようやくプレスクールを開講することになりました。

豊岡に倣って、デニムパンツ製作を学べる「ミシンオペレーターの研修」という形で一般募集を試みましたが、それでは全く申し込みがなかったそう。困っていたところ、この募集をたまたま知った地元の繊維関連企業から「新人研修として学ばせてもらえないか」という申し出がありました。本来の目的とは違いましたが、「やってみないとわからない」という思いで、企業からの受講生2名でプレスクールが始動しました。

改善を重ねたカリキュラムブック
場所の提供や、使っていないミシンの貸し出し、見本の作成、生地やファスナー、型紙や裁断など、全て委員会メンバーが協力しあって用意した手作りの学校。先生はもともと産地で長年縫製に携わってきたOB。どうにか形になったこのプレスクールに手ごたえを感じ、デニムスクールを本格的に始めることになりました。ただしオペレーター(縫製工)の研修という限定的なものではなく、「福山で服づくりを学ぶ」として学びたい人を広く募集を始めます。そして、2019年7月に第1期で4名、2期で6名、3期11名、というように次第に卒業生の数も増えていったそうです。

それに伴って、手描きだったカリキュラムブックも、卒業生と協力して改訂版を製本。HITOTOITOの活動内容を知ってもらうための冊子もできました。
新しく出来上がった活動の紹介用冊子

本来人材育成が目的のデニムスクールで、委員会に所属する工場に就職した卒業生も数人います。少しでもこの産地で働く人が増えればいいし、産地のことを知ってもらえて、賛同してもらえれば
いい。今はそんな考えでスクールを運営しているのだそうです。
実際卒業生は、イベント時や簡単な作業の仕事を進んで手伝ってくれたり、SNSで発信してくれたりと、HITOTOITOの実質的なサポーターでもあるそうです。

最初は縫製工を育てたかった想いも、少しずつ変化。今では「まず、知ってほしい」に変わりました。

*

スクールを開くにあたって、木工企業からの質問に「現場ではやはり、見て覚える職人気質が残っていますか?」というもnがありました。デニム産業にもそれは当てはまり、覚えたくても周りの人が忙しい、中々覚えられないなど、技術を習得する際の問題点は多々あるようです。

もしかしたら、技術の継承は地場産業共通の問題なのかもしれません。

『学校』は、大人になった今こそ楽しい。
概要説明を終えて、いよいよ2階のデニムスクールを見に行きます。ちなみにこの建物は最近引っ越したそうで、とても味わいある作りでした。
2階へ
つやつやな手摺りに、歴史を感じる。
手裁断用の台が置かれた2階 
ジーンズのパーツたち
手織り機
絣がどんな仕組みで織られているかを伝えるための手織り機。

作るきっかけは、黒木さんがロンドンの蚤の市で見つけたおもちゃの織り機だったそうです。それを府中市の木工企業「伝統工芸」さんに依頼すると、しっかりとした木の織り機が完成。もう少し改善中とのことですが、綺麗なプロダクトでした。

隣には、イベントで作成依頼があったデニム製チケット。こんなチケットなら、イベント後も部屋の片隅に飾ってしまいそうです。
デニムで作られたイベントチケット(撮影:松葉)
*
いよいよ、デニムスクールへ入っていきます。
デニムスクール

この日は、約一か月学んできたデニムを完成させる日。受講生がもくもくと手を進めていました。

それぞれの受講生が、自分のペースで作業を行います。ついつい、見学者も近くで見入ってしまいます。
(撮影:塩出)
講師は高山先生。長く繊維産業に関わり、引退後に地域に何か残したいとの想いで、今はデニムスクールに講師として参加しています。プロに間近で質問しながら学べる環境は、とても貴重ですね。
スクールの受講生はスキルも様々。初めてデニムミシンを扱う人もいるため、丁寧に教えるよう心掛けているそうです。この日は仕上げの一日。思い思いのデニムを完成させていました。
練習の跡
先生たちの眼差しが優しいです。

***

「学校は、大人になった今こそ楽しい。」

黒木さんが説明の時に話していた一節です。義務教育や大学では、「学ぶこと」が義務だった。でも、大人になってからは学びは遊びに繋がります。知ることの楽しさ、できることの楽しさ、作り上げることの楽しさがここには溢れていました。

見学者も、いくつかの機械を体験させてもらいました。
ボタンを足の力で打ち込む装置
閂止め(かんどめ)専用のミシン
*

デニムスクールでは、ミシンを使った実践のほかに座学として繊維関連企業・工場の見学も1週間に1度行います。

主な訪問地は地元のしんいち歴史民俗博物館をはじめ、デニム生地の織布工場、ボタン等の服飾用金具を取り扱うメーカー、新井工場など、デニムスクールならではの場所。
福山市北部の繊維産地の背景を学ぶことを目的とし、スクールを組み立てる上でも重要な要素になっています。ただ技術を磨きデニムを縫い上げるだけではないカリキュラムが、デニムスクールには準備されていました。
集い、学び、広がる
第4期カリキュラムの最終日に近づきつつあることで、現在は第5期生を迎える準備をしていた黒木さん。嬉しいことに、第5期も定員がいっぱいになったそうです。

このスクールで面白のが、「卒業生が進んでイベントを手伝ってくれる」ことだと黒木さんは話します。
受講生が書いてくれた冊子内のストーリー
地域で育った文化が、人を介して少しずつ伝わっていく。お互いに支えあいながら、新たな場を作っていく。繊維産地継承プロジェクト委員会「HITOTOITO」のデニムスクールからは、学びの場をつくるヒントがたくさんありました。

一緒に見学した木工関連・ソファ関連・鉄工関連の企業に、何か活かせるきっかけになるはず。黒木さん、受講生の皆さん、ありがとうございました。