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癖の強い別注家具をカタチにする
『高橋工芸株式会社』を訪ねる【SFV Online Vol.5】

婚礼家具の一大産地で、違う家具が作りたかった。
先代の意思を受け継ぎながら、婚礼家具の産地として有名な地域で敢えて書斎家具を作り続ける企業があります。
今回訪問したのは、広島県府中市で書斎家具を中心に別注家具を作る高橋工芸株式会社。

案内は高橋工芸の三代目、高橋和希さん。2020年10月7日に行なわれた工場見学を取材しました。
3代続く、オーダーメイドの家具作り
婚礼家具の産地として有名な府中市で、敢えて違うことがしたいと書斎家具を作り始めた高橋工芸。日本全国から届く「一点もの」の要望に日々応え続けています。

住空間が時代とともに変化する中で、2代目から作り始めたのが別注家具。より充実した住空間を作るため、自然と業態が変化したそうです。しかし、今となってはどのメーカーも別注を取り扱い始めました。

強みは「どれだけ難しい別注でも、形にできる」こと。同じものを100本作るより、違うものを作り続けたい同社の職人気質とも方針が合っているそうです。

東京のインテリアショップでのフルオーダー家具や、某有名メーカーのクルーザー内装など他社が嫌厭した複雑な製品提案を受注して制作しています。

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今回工場見学に参加したのは、木工関係を中心とした7名とオンライン視聴3名。同業の職人たちが見る工場は、一緒に回っていると様々な気づきがありました。
誰が見ても「わかりやすい」図面を作る
工場に入ってすぐあったのが作業工程表。

制作している家具の工程と予定が一目でわかる、縦割りのスケジュールパネルが置いてありました。
工程パネルは発注毎に独立して外せるよう工夫がされていました。工程ごとに色を使い分けているので、工程スケジュールも一目でわかります。
さらに面白いのが図面。

段ボールに設計図面を張り付けて、作業場の中で簡単に持ち歩くことができます。
元々はベニヤ板だったこの設計図。

段ボールは軽くて持ち運びも簡単、万が一人や設備にぶつかっても大丈夫、見学者も目から鱗の絶賛でした。
図面デザインは、すべて3D。詳しくは載せられませんが、初めて見た人も文字が見えにくい高齢の職人さんもわかるように図面を作るそうです。
細部に宿る、職人気質
工場は製造と塗装を行う1階と、仕上げや梱包を行う2階がリフトで繋がっています。
工場を見学しながら感じたことは、工具の整理整頓が美しいこと。
最初に気付いたのは、参加者から声が上がるほど見事に整理された工具棚。この整理は、担当者それぞれに委ねられているそうです。

この棚も、担当する職人の手作り。
この刃収納も、手作り。
棚はもちろん、引き出しまで手作りです。
引き出しの中にも一工夫。
綺麗に作られた引き出しは、オーダー家具で余った素材を流用して自由に作っているそうです。オーダーメイド家具は、試作段階でいくつも素材を作成するため流用できない素材がたくさん生まれるそう。

「作りたいとき、職人が自由に作るんです」

なんだか楽しそうに話す高橋さん。もう使われない別注素材を用いて、作業現場が少しずつ改善されていく様子は理想的な現場だと感じました。

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もうひとつ特徴的だったのが、職人一人ひとりが持っているラジカセ。
始めは「ラジオがよく流れる工場だな」位の印象でしたが、よく見ると棚の奥にラジカセが置いてあります。

ここにも
よく見ると、ここにも
ここにも。
集中して作業するだけでなく、楽しく作業ができるように。

それぞれ好きなラジオや音楽を流しながら作業するそうです。なんだか、良い空間でした。
全国からの要望に応える、確かな職人技
別注家具は、文字通り一点もの。デザインするのは、高橋工芸に4人いる設計者です。

そして、彼らが描く家具を実現させるのが高橋工芸の職人たち。

見事な曲線のコーナーも、図面と経験を頼りに作り上げます。
独特な形状の脚も、絨毯の上でしっかり削り上げます。
棚の形状は、毎回形が違うだけでなく複雑化しやすいそう。

毎回、職人の技が試されます。
図面に合わせてしっかり丁寧に。少しずつ、棚が組みあがっていました。

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家具作りでもう一つ重要なことが、杢目。デザインと強度を両立させるために、細やかな技が組み合わせられています。
例えばこの素材は、机の天板を作るための木材。反りを打ち消しあうよう、木目の向きを上下で互い違いに合わせています。
それでいて、天板になる表面はしっかりと周期的な杢目をデザイン。

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このテーブルは、節を入れない要望がありました。必要に応じて塗装(調色)も行います。
塗装一つとっても、表情はさまざま。オーダーメイドだからこそ、顧客から「思っていたのと違う」と言われると再施工が必要になる、とてもシビアな工程です。

この棚のポイントは、縦に伸びた2枚の年輪を揃えて見せるデザイン。
もちろん、天然木突板です。
引き出しはもちろん、本来見えない棚奥の板までしっかりとデザインされていました。
塗装後に組みあがった棚はローラーでリフトまで運ばれ、リフトを使って2階へと移動します。
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最終的な仕上げを行う2階奥のスペース。
納品前の組み上げをしていたこの製品は、まだ一部のみ。寝室に合わせて追加で2つ棚が組み合わされるそうです。

大きなスライド式の扉は、正対称にデザインされた4枚の杢目を組み合わせ。
放射状に広がる幾何学模様と、まっすぐに入る板の継ぎ目。見る角度で色味も変わる、本当に綺麗な扉でした。
細部を確認する他社の木工職人。

引き出しの滑らかさや、見えない部分の作りの良さ。同じ木工職人たちも思わず驚きます。
さいごに梱包作業を終えて、リフトで再び1階へ。お客様のもとへと輸送されていきます。
時代の先を読むプロダクト
最後に見学したのが2階のショールーム。
過去に作られた1点ものの製品やその試作品が整然と置かれていました。

面白かったのが、いくつかあった製品コンセプト。例えば、「テレビの存在が消えるテレビボード」や、「持ち運びができるパーソナルデスク」など、今もニーズがある製品たち。
これらの制作は、すでに数年前に完成していたというから驚きです。

参加者からは「今作れば絶対売れるんじゃないですか?」と矢継ぎ早に質問が来ていました。どの製品も、時代を先取りしすぎてニーズが少なかったそう。さらに、一点もののためどうしても原価は高くなってしまいます。

とはいえ、このパーソナルデスクも3点作って2点は売却済みとのことでした。挑戦的な製品開発には、驚きと楽しさを感じます。
古い箪笥を朱色に塗り替え、板を一枚ずつパッチワーク調にリフォーム。取っ手や金物は当時のまま。

今はもうない意匠と現代のデザインの組み合わせがとてもきれいです。
女性のしごとが、会社を整える
一通りの見学を終えて、皆さんから質問に答える時間になりました。

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最初に質問が出たのが、女性従業員について。

最初の女性スタッフは、子育ての傍ら9時から12時までの働き先を探していたそうです。しかしハローワークで職を探しても、中々条件が難しい。そんな話を知人から伺った高橋さんは、女性をアルバイトと迎え入れたそうです。
作業の一部を女性にお願いすることで、工程がスムーズ回り始めました。
その後は梱包作業にも従事してもらうようになりました。今では口伝で話が広まり、3名の女性がアルバイトとして従事しています。

「働きたいときに、働ける会社」。高橋さんが目指す一つの形だそうです。

女性スタッフが工場に入ることで、現場の雰囲気も柔らかくなったそう。普段あまり話さない職人さんたちも、少しコミュニケーションが増えました。これからも、女性の雇用を増やしながら職場の雰囲気が明るくなることを期待しているといいます。

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「どこが工場で一番好きですか」という質問に、高橋さんは「出荷場」だと答えていました。
オーダーメイドの見積もりは、毎回ニーズが違うため金額算出も難しいそうです。

その中で、完成した製品を見ながら「ここまでできたか」と喜ぶことも、「もっとできたな」と気を引き締めることもあるそう。設計をやり続けた知識の積み重ねから、今も難しい別注家具を注文いただけると感じているそうです。
70年の歴史と共に、変わり続ける
今回1時間半をかけて行った工場見学。たくさんの学びと驚きがありました。オンライン視聴者からも、「現場が綺麗で感動しました」「段ボールの図面が素晴らしかった」という声がありました。

この話をしながら、以前は工場見学なんてできない状況だったと高橋さんは話します。

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婚礼家具の有名な産地だったこの地域は、70社あまりが競合他社として技術隠しながら競争していたそうです。しかし生活様式が変化する中で会社も減り、今では20社程度に。

「産地を残すためには、お互いの技術を知る必要がある。」

その思いを、地元数社で共有しながら少しずつ現場を開放していったそうです。
危機感を持ち、少しずつ経営や方針も変化させていった高橋工芸。環境は少しずつ変化していますが、小さな頃に高橋さんが書いた絵は、未だ会社の食堂前に残っています。

変わりつづけることと、変わらないこと。

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工場見学はここで終わりましたが、お昼休みの工場をもう少しだけ。窓から入る工場の光が、僕は大好きです。
高橋さんも、この空間が好きだと話してもらいました。

休日に事務所で作業をしながら、ふと誰もいない工場に足を運ぶ。無音の工場に、風の音。少しの間、ゆったりと時間を過ごすそうです。自社の工場が好きって、素敵なことですね。
変わり続けるもの、変わらないもの。

一貫した別注の書斎家具生産に、その想いを見ました。